田中豊誠

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田中 豊誠(たなか とよしげ)とは、2010年夏の2ヶ月間で京都市内や京田辺市内に住む一人暮らしの女性(当時18~23歳)4人を強盗強姦した男である。

犯行当時は49歳。

最長17時間も強姦犯行レイプ魔の「悪魔の所業」

「ニュースでよく殺されたり、怪我したりするやつおるやろ、いつでも殺せるんやぞ」…。

マンション管理会社の関係者を装って部屋に入り込んだ男は、そう脅すと、目隠しして手を縛った女性をマスクとゴム手袋姿で執拗にもてあそび続けた。平成22年夏、わずか2カ月あまりの間に、京都市や京都府京田辺市で4件の連続強盗強姦事件が相次いだ。犯行は、最長で17時間にも及んだ。

「相当長期の懲役刑をもって臨むべき」

「被告人を懲役25年に処する」。4件の事件にからみ、強盗強姦や住居侵入などの罪に問われていたのは、大津市の無職、田中豊誠(51)。

田中が全件で「無罪」を主張したため、証人17人、審理期間30日間に及び、京都地裁の裁判員裁判としては過去最長となった裁判の判決が2012年10月10日、言い渡された。

「犯行は卑劣で悪質」「被害者が受けた恐怖感、屈辱感の精神的苦痛は計り知れない」「刑事責任は極めて重く、相当長期の懲役刑をもって臨むべき」

傍聴者でほぼ満席になった京都地裁の大法廷で、市川太志裁判長は田中を有罪とする判決理由を淡々と読み上げた。

弁護人は一貫して無罪を主張、自身は黙秘していた田中だったが、結果を予想していたのか、小太りの体で証言台に立ったまま、特に驚いた様子も見せず「理由」に耳を傾けた。

判決によると、田中は平成22年7~10月にかけてマンション管理会社の関係者を装い、京都市内や京田辺市内に住む一人暮らしの女性宅(当時18~23歳)に侵入。女性4人の手をネクタイなどで縛り、目隠しした上で乱暴し、現金計約100万円を奪った。

検察側は冒頭陳述で、田中が高校を卒業後、コックとしてホテルやケーキ店に勤務し、平成20年ごろから自宅で菓子教室を開くなどして生計を立てていたが、犯行当時の2010年夏ごろには無職で収入も途絶えていたと、指摘した。

下見

起訴された事件は4件。検察側の冒頭陳述などによると、犯人はいずれも犯行前に被害女性方を下見するなど、入念な計画に沿って犯行に及んでいた。

京都市左京区の女性(23)が被害を受けた事件では、約4カ月前から1週間に1度の頻度でマンション管理会社の関係者を名乗って接触、女性を信用させ、簡単に部屋に侵入していた。

「強盗殺人は何で起こるか分かるか。強盗殺人は逃げるから起こるんや」

2010年9月24日午後6時すぎ、女性方に上がり込んだ犯人は、女性の両手首をネクタイで縛り、両目に粘着テープなどをはり、視界を遮ったうえで現金約7千円を強奪。その後、約4時間、2度にわたって乱暴した。

証拠隠滅

徹底的に女性をもてあそんだうえ、執拗に脅し、周到に証拠隠滅を図ってるのも4つの事件の共通した特徴だ。

この事件でも、女性の携帯電話を取り上げ、友人らのメールアドレスをメモしたうえ、携帯電話で撮影した女性の裸の画像を「知人にばらまく」と脅迫。犯行後には、女性にシャワーを浴びさせたうえ、女性に服を洗濯させ、さらに事前に用意した粘着テープ型の掃除用具で、部屋の掃除までさせていた。

それだけにとどまらず、奪った現金が少ないことを知ると、女性に近くのコンビニで預金を下ろすよう命じ、約30万円を路上で受け取った。去り際には「警察に行くのはよく考えてからにしいや」と、捨てぜりふを残したという。

侵入から一連の犯行を終えるまで約15時間。ほか3件の事件でも、犯行時間は3~17時間に及んでいる。

共通したのは残忍、狡猾な手口

そもそも4件の犯行が、同一犯によるものであることは、その残忍で狡猾な手口から明白だった。

男は、マンション管理会社の関係者を装って女性を油断させ、水道点検などを装っては簡単に部屋に入り込んでいた。そして必ず、流し台の下の配管の番号を確認させ、犯行に及んだ。

共通点はそれだけではない。4件の事件は、周到な計画性と犯行時間の長さ、被害者自身に証拠隠滅に当たらせ現金まで奪う卑劣さなど、多くの点で酷似していた。

証拠を残さないよう、マスクとゴム手袋姿で犯行に及び、自分と被害者の携帯電話のカメラで、それぞれ犯行の様子を撮影、脅しの材料に使った。

証拠を残さないようにと考えたのか、自分のカメラではあえて不鮮明な写真しか残していなかったが、目隠しをした被害者には、シャッター音からすべて撮られたと思い込ませていた。

さらに、いずれの事件でも犯行後には、女性にシャワーを浴びさせた上、女性自身に服を洗濯させている。それだけにとどまらず、事前に用意した粘着テープ型の掃除用具で部屋の掃除をさせ、「証拠隠滅」まで強要していた。

そして、女性の裸の写真をばらまくと脅し、わざわざコンビニや銀行で金をおろさせ、奪い去っていた。

無理矢理な口止め工作

例えば、22年9月6日に京田辺市内で起こした2件目の事件では、乱暴され、恐怖で抵抗できない状態に陥った女性に裸の写真を示し、「これをどこかのサイトにばらまくこともできる」と脅迫した。

キャッシングで10万円、銀行で預金を下ろして10万円、コンビニで下ろして10万円を作れ。キャッシングできなければ預金を全部下ろして渡せ。金と携帯電話を交換してやる」と命じ、実際に引き出させた27万円あまりを、路上で受け取っていた。

「ここで絞め殺してもいいんやぞ」

「警察に言わないための保険としてこれ(携帯電話の写真)を撮ったから」

「パニックになったら、暴力したりしてしまうから。騒ぐんやったら、覚悟して騒いで」

「強盗殺人はな、逃げるからおこるんや」

「もし、変な素振りを見せたら、この携帯から家族とかに写真を一斉に送る」

女性たちに向かって吐き捨てた文言も、内容こそ違っても、人を人と思わないその主旨は一貫している。

袖が裂けたスーツ

田中が逮捕されたのは、2010年10月1日に起こした4件目の事件の直後、現場マンションの敷地内で行われた警察官の職務質問がきっかけだった。

当時、田中被告が持っていた粘着テープの固まりやコンドーム、さらにゴム手袋から検出された残留物のDNA型は、被害女性のDNA型と一致した。さらに、掃除機の紙パックのなかで見つかったたばこの吸い殻からは、田中のDNA型と一致する唾液が検出された。

「右袖が裂けたスーツを着ていた」。そんな被害者の目撃証言も、田中の特徴と完全に一致した。

それでも、裁判で弁護側は、起訴された4件について「証拠に誤りの可能性がある」と無罪を主張。田中も黙秘を続けた。

しかし判決は「合理的な疑いを容れる余地なく被告人が犯人である」と断定。他人が吸ったたばこの吸い殻まで用意周到に持ち込み、犯行現場に残していくようなことまでして偽装工作を図った田中だったが、いびつに肥大化した自分の性欲と支配欲を隠すには足りなかった。

被害を受けた女性たちは事件から2年が経過する今も平穏な日々とはほど遠い毎日を送る。宅配業者に応対できず、田中とよく似た格好の中年男性が怖い…。

被害者参加制度を使って裁判に参加した被害者の女性の1人は、意見陳述で「誰の助けも呼べない中、恐怖と屈辱だった。被害を生涯忘れることはない」と訴えた。別の被害女性も「友人や彼氏、家族に申し訳ない気持ちでいっぱい」とやるせない心情を文面で吐露した。

判決文を読み上げた後、市川裁判長は「犯した罪に正面から向き合い、償いの気持ちを胸に刻んで服役してください」と述べた。

しかし、田中はうつむいたまま。最後まで自ら真実を語ることも、謝罪の言葉を述べることもなかった。